Essays
JCBS/UBRJ/RINGSセミナー
「『しま』を考える;
共同体の想像と協働」参加記
地田 徹朗(名古屋外国語大学准教授/JCBS理事)
2024年5月26日(日)、北九州市立大学北方キャンパスにて、NPO法人国境地域研究センター(JCBS)、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター境界研究ユニット(UBRJ)、名古屋外国語大学グローバル共生社会研究所(RINGS)、同世界共生学部世界共生学科の共催で、セミナー「『しま』を考える:共同体の想像と協働」が開催された。対面とZOOMウェビナーとのハイブリッドで、合計40名ほどの参加があった。
赤星道子(JCBS会員)の耳心地のよい司会と共に始まったセミナーでは、報告者2名が登壇をした。天野尚樹(山形大学)は、「『ヨリ島』は入っているか:奄美群島の構築と『愛される帝国』の創出」と題し、1972年の沖縄返還に先立つこと19年、1953年12月に日本への復帰を果たした奄美群島について、返還運動の中で沖縄と差異化することで構築されていった「奄美群島」の境界と共同体の想像プロセスについて論じた。黒石啓太(北九州市立大学)は、「島嶼自治体における住民・議会・行政」と題し、島嶼部での地方自治の歴史を紐解きつつ、政府による島嶼部に対する政策に対する島嶼自治体からのリアクション今日における島嶼部自治の問題点について論じた。
その後、花松泰倫(九州国際大学)と地田徹朗(名古屋外国語大学)がコメンテーターとして入った。花松からは島嶼部の弱みを強みとして使う「したたかさ」について指摘し、「しま」というものを一つのユニットとして捉えてよいのかとの問題提起を行った。地田からは、「より島=硫黄鳥島」に住んでいた人びとの境界の捉え方、「県」や「ローカル」スケールでの「しま」の捉え方やそれらの主体性、元来移動する民であったはずの島嶼部の人びとの特性が「しま」への政府による政策や自治のあり方に影響を及ぼしたのか、といった点について質問がなされた。オンラインを含むフロアからも数多くの質問がなされ、活発な議論が展開された。
このセミナーから、「しま」がもつアイデンティティ、そこでの地方自治や共同体のあり方、国に自らの独自の利害を訴えかけるしたたかさといったことから、独特な境界性のようなものが存在することが浮かび上がってきたと言えるのではないか。セミナーを終えて、このような感想を抱いた。もちろん、日本全体がそもそも島国なわけだが、その中でも島嶼部や離島については、国境離島かどうかということにかかわらず、ボーダースタディーズにおける重要なテーマになり得るということを改めて実感したセミナーであった。
なお、本参加記の執筆者(地田)は、セミナーの現場でウェビナー周りのロジも担当していたが、ZOOMウェビナーでの会場音声が聴き取りにくいとの連絡があった。音声については現場で地田がウェビナーの音声を確認するなど万全を期したつもりだったが、聴き苦しい点があったことをお詫び申し上げる。