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   JR九州高速船・対馬(比田勝)から博多への混乗便に乗る    [pdf版]

岩下 明裕(北海道大学・九州大学、JCBS副理事長)
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混乗便:北対馬の夢

 混乗という聞きなれない言葉をご存じだろうか。これは国際航路として運航している旅客船に国内旅客を乗せて運航するという意味である。日本と海外を結ぶ国際航路もそう多くはないのに、国内の旅客を乗せるとは? ピンとこない方も多いだろう。
 だが韓国と結ぶ高速船が現在5社もあり、今年9月末現在で年間30万を越える韓国人が訪問している対馬の話だと言えば、なるほどと思う人もいるかもしれない。そう、国境の島ならではの。 「対馬が韓国人に乗っ取られる」という懐かしいフレーズを覚えている方もいよう。対馬のいまは韓国人観光客のプレゼンスがもっともっと強まっている。 ひと昔前までの団体旅行に加え、個人で訪問し、レンタカーで旅をするスタイルがいまや主流となりつつある。 とくに釜山から1時間で着く北の玄関口、比田勝の賑わいは際立つ。免税店も2店目がオープンし、韓国人向けの新しい飲食店が増えている。そして来年6月にはみうだの温泉横に東横インがリゾートホテルとしてオープンするという。 今や韓国からの対馬の入国者数の4分の3が比田勝であり、厳原をはるかに圧倒している。

 さてこのような韓国からの訪問客を運ぶ高速船会社の一つがJR九州高速船である。ビートルの愛称で親しまれてきたこの船は福岡と釜山を結ぶ航路として発展してきた。2011年、このビートルが比田勝と釜山を結ぶ航路に参入したのを契機として、比田勝は釜山航路の中核としてブレイクしていく。
 ところで釜山から福岡に直接向かうビートルは航路上、比田勝の近辺を通っている。釜山から比田勝にいく航路も開かれた今、釜山・博多を結ぶビートル国際線に比田勝から乗って直接博多へ行く道が開かれないだろうか、 このような声、つまり混乗への希望が上対馬の市民からあがった。 確かに対馬は福岡と、飛行機でも九州郵船のフェリーや高速船でも、結ばれている。 だが空港は比田勝から車で1時間半以上かかる美津島にあり、九州郵船の高速船はさらにそこから30分かかる厳原港に入る。 比田勝と博多を直接結ぶのはフェリーげんかい。 ただこれは片道5時間もかかる長い航路だ。 比田勝の人々にとって、釜山は1時間だが、博多はその3倍も4倍も時間的に遠い位置にあった。
 この混乗の実現に尽力したのが、財部能成・前市長である。そのふくよかな風貌を裏切るようなパワーと熱情をもった財部市長は、 国内線と国際線を同じ船で実現するといった、先例などあるはずもなく、 ましてや国の役人が嫌がるにきまっている、この途方もない計画に挑んでいった。 率直に言えば、私もこんなのは到底、実現は無理と心のなかで思っていた。ところが、である。 わがNPOの薮野理事長やメディア関係者などの様々な支援、これを受けた政治家を含む関係者の力技により、なんと実現してしまったのだ。 最大の難関は国内線と国際線の客をどう交わらないようにするかという点であったというが、解決策はカーテンで仕切るという話であった。
 2018年5月、ついに国交省の認可を受けた混乗便が動き始めた。乗ってみたい、、、そう思ったが、学期の前半は札幌がベースのため、動けない。 11月に入り、福岡にベースが移った。念願の混乗便乗船がかなう日が来た。

 

いよいよ乗船

 当初は往復、混乗便に乗り、博多と比田勝を往復しようと思った。だが11月は毎日運航されておらず、日程があわない。 そこで往路は国内航路である九州郵船ヴィーナスに乗って、厳原港に入り、そこからバスで北上するプランにした。 11月27日、10時半発のヴィーナスは当然、博多の国内船ターミナルから出る。壱岐経由のジェットホイルでおよそ2時間半。 そこからバス。比田勝まで2時間半。計5時間。札幌から稚内にいくのと同じだが、さすがに遠い。比田勝の方には申し訳ないが、 「地の果て」に向かう感覚だった(これまで比田勝には何度も行っているが、航路とバスを連続して乗ったのは初めて)。
免税店

 へとへとになってまちを歩くと、国際ターミナル前に新しくできた免税店がまぶしい。 その一階にはなんとコンビニ(ポプラ)がある。 いくつか目新しい飲食店も目に付く。その夜はいつもお世話になっている地元の方と夕食をともにし、 比田勝の最近の発展についてご教授いただいた。
 さて翌28日、10時過ぎ発の便に乗る前にタクシーで、みうだ浜へと向かう。 対馬国境マラソンのスタート・ゴール地点の場所だ。渚の湯のよこに大きなクレーンと工事現場がある。 たしかに基礎ができている。
みうだの建設風景
ここに東横インができればまた比田勝の風景は大きく変わるだろう。 そのままタクシーで殿崎により、日ロ友好の碑に一礼をして、国際ターミナルへ。手続きをするとIDを出せといわれる。 免許証、パスポートなど顔写真付きの公的な身分証がないと乗れない。 これが混乗便のセキュリティ対策なのだろう。 首から下げるフォルダを渡されチケットとIDを一緒に下船まで下げているようにと指示される。
チケットとIDのフォルダ

 9時40分、釜山発のビートルが到着。韓国人がどんどん降りてくる。ロビーは混雑しはじめる。 私たちはどうしたらいいのか、よくわからないが、とりあえずロビーで待ってと言われたのでそうしている。 フォルダを首から下げているのが混乗便乗船客だとわかるから、安心だ。10名くらいか。すべて日本人。

 9時55分、突然アナウンスがある。博多行く人たちはこちらについてこいと。 なんとターミナルの外に案内され、横のフェンスから入れという。
博多行の人たちの乗船シーン
出入国管理と税関のルートではなく、まさか横からとは想像だにしなかった。 そのまま乗船。2階席に案内されると周りはすべてカーテンに覆われている。 そして私たちが座るとその入り口もカーテンでふさがれる。 動き出して写真をとったり観察したが、カーテンが開かないように床とボルトでしめられている。
カーテン仕切り
カーテンではだめだ、空気感染があったらどうする、 と最後まで検疫が抵抗していたらしいという本当かどうかわからないエピソードを思いだした。
 博多までは2時間。なんと快適なたびだろう。港に着くと、国内線の10名は最後の下船。 博多で乗るときは先だが、博多で降りるときは後とのこと。カーテンがすべて開いている。 降りるとそうここは国際線ターミナル。往路で使ったヴィーナスがでる港とは離れた場所にある。 国際線ターミナルだから、中に入ると出入国はこちらと書いてある。 が職員は私たちを別の道へと誘導。出入国管理の場所は通らない(もちろん、検疫も通らない。 ただし口蹄疫の洗浄マットは通過したような気がする)。建物をぐるっとまわると、なんと税関だ。 向こうのレーンで韓国人がバックをチェックされている。私たちはチェックがない。 そこでフォルダからIDをみせろといわれて終わり。出口で係員がフォルダとチケットを回収。 でも出口は税関からだから、国際線で釜山から帰国したような気分だった。
 その後、JR九州高速船の水野社長と北海部長にご挨拶に行ったが、 到着時間がお昼休みだったので混乗便に乗りましたとのメッセージを託してターミナルを後にする。 そのままバスにのって天神へ。はい、お疲れさま。
 船の中で、地元の方がいまから佐世保にいくとか、おにぎりどうかと楽しそうに会話していたのが印象深い。 混乗便は比田勝と博多の距離を大きく変えることになりそうだ。問題もある。地元の人々にとって10時発の往路は使いやすい。 今回も26席に10名が乗っていた。ただ帰路便は13時台、14時台が多いため、使い勝手が悪く、搭乗率が低いと言われる。 帰りは夜に出るフェリーげんかいを使う人も少なくないそうだ。
 混乗便は九州郵船とJR九州高速船の協力で実現したものだ。だから島民ファーストであるべきだとは思う。 しかし、人が乗らなければ、せっかく実現した混乗船もいつまで運航を続けられるかわからない。 一人でも多くの方に、そして観光客にも乗ってほしいと願っている。とくに博多から2時間で行ける国境最前線・比田勝のまち。 日本でありながら、韓国との交流で独自の空間となっている国境のゲートウェイ。 混乗便は対馬の新しい観光資源のひとつでもあるのだから。

 

[2018.12.1]


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