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JIBSN五島セミナーに参加して  
   — 地域とツーリズムの相補的な関係 —    [pdf版]

川久保文紀(中央学院大学)   

 去る10月28日、JIBSN境界地域研究ネットワークJAPAN五島セミナーが「国境を越えて地域をむすぶ―交流・観光・教育」と題して、五島市はたなかイベントホールで開催された。 休日にもかかわらず、開催自治体である五島市民の方々も多数参加され、このテーマに対する関心の高さがうかがわれた。 まず、JIBSN代表を務める野口市太郎五島市長からご挨拶があり、深刻な人口減少や高齢化に直面する境界自治体間の交流を継続的に行っていく重要性が述べられた。 次に来年のJIBSNセミナーの開催自治体である小野徹礼文町長が、有人国境離島振興法の成立の意義やボーダーツーリズムの積極的活用による離島振興について述べられ、 大浜友司竹富町政策調整監と伊豆芳人ボーダーツーリズム推進協議会会長のご挨拶に続いて、セッション1「境界自治体の行政交流」が古川浩司中京大学教授(JIBSN副代表代行)の司会進行によって行われた。
 古川教授からは、自治体国際化交流協会による定義に基づきながら、 JIBSN加盟自治体間の姉妹(友好)都市連携の動向に関する現状説明があった。 まず、三谷将氏(稚内市サハリン課)は、稚内市と日本の主要都市との距離(稚内―東京間1,000キロ)を紹介された上で、稚内とサハリンの距離は約43キロであり、 夏期のみの定期航路でつながるコルサコフが一番近い都市であることを述べられた。 稚内は、サハリンにおけるネベリスク、コルサコフ、ユジノサハリンスクとの友好都市連携をこれまで積極的に進めてきた経緯を踏まえ、友好都市提携の類型論が提示された。 その類型論に基づけば、稚内とサハリンの友好都市との連携は、「近距離―歴史型」(歴史的な繋がり強いが、距離が近いことで問題も生じる)に位置付らけれるとした。 類型論を提示した上での姉妹都市連携の比較分析は、セミナーに参加した研究者にとっても有益なものであった。 吉田隆氏(隠岐の島町教育委員会社会教育課長)は、アマチュア相撲大会を通じた親日国ポーランドのクロトシン市との国際交流について紹介され、 国際交流の目的の確立と広く住民との問題意識の共有を前提とした上で、今後も国際交流を積極的に進めていく決意が示された。 阿比留裕史氏(対馬市しまづくり推進部次長兼政策企画課長)は、ブサン―比田勝―厳原―福岡における混乗便の就航、 侵攻と親交の要衝である朝鮮半島との交流活動、対馬高校の国際文化交流コースの取組みなどについて、対馬の置かれた地理的位置の重要性を踏まえながら論じられた。 通事太一郎氏(竹富町政策推進課長)からは、国境有人離島を有する境界自治体としての竹富町の様々な行政交流についてお話があった。 1973年に竹富町は北海道の斜里町との姉妹町協定を結び、北東端と南西端の国立公園を有する自治体間交流が進んでおり、2016年には対馬市との間で友好都市協定を結び、 保護増殖と環境保護を目指すヤマネコアイランド宣言を出した経緯や漂着ごみなどの共通する諸課題について述べられた。
 セッション2は、「境界自治体の地域連携教育」と題して、石田聖講師(長崎県立大学)の司会進行のもとに始まった。 石田講師からは、「しまなび」という長崎県立大学の学生600人を離島へと送り出すプログラムの紹介と、 その運営に関わる経験から、離島振興における大学教育の重要性について述べられた。 次に、今回のセミナーの開催自治体である五島市の久保実氏(五島市総務企画部長)よる「五島市における地域連携教育」と題した報告が行われた。 五島市と長崎大学や長崎県立大学との包括連携協定の締結による離島教育プログラムによる交流促進、E-アイランドスクールの開設、 「しま留学」の創設による二次離島の学校存続への取組みなどを説明され、産業・観光の振興ばかりではなく、 教育コンテンツによる島外との人的交流の意義を述べられた。小嶺長典氏(与那国町企画財政課長)より、 島国日本をかたちづくる国境離島が、観光を契機として地域成長サイクルを生み出す諸施策について述べられた。 ICTを積極的に活用した観光客と国境地域の繋がりをつくり、記録→記念→学びのサイクルを循環させ、 国境観光プログラムを軸としたスタディーツーリズムとしてのボーダーツーリズムの重要性を説かれた。 最後に、織田敏史氏(根室市北方領土対策参事)より、北方領土問題を抱える根室市の修学旅行誘致事業の現状と課題について報告された。 元島民の高齢化が急速に進み、北方領土返還運動を担う運動後継者の育成が急務の課題となっており、平成15年度より内閣府の補助事業として、 全国から修学旅行を誘致する取り組みを行っているが、訪れる学生数が減少している現状を打開する方策についての説明があった。
 第一部と第二部をつなぐ全体討論において、JIBSN企画部会長である岩下明裕教授(北海道大学/九州大学)より総括コメントが行われた。 今回のセミナーの目玉である五島から済州島にチャーター便(コリアエクスプレスエアー)を飛ばす試みがいかに画期的であるのかについて、 与那国と台湾・花蓮との間にチャーター機を運航させたときの経験をもとに説明された。 その上で、 五島つばき空港にはCIQ施設もなく、その臨時施設を設置するために、国や県、 そしてANAとの協力をとりつけた五島市の尽力に謝意が述べられた。 岩下教授は、今回の取組みが、交流がなかった境界地域をつなぐきっかけとなり、 今後の済州から五島への新たな航路開拓の可能性にむすびつく期待を示された。
セミナー風景

 

 今回の長崎・五島から韓国・済州島を結ぶボーダーツーリズムに参加して、 境界地域のもつ「砦」や「辺境」といったイメージを払拭し、むしろ、それらを資源として多面的に活用することが地域振興と観光需要の創出に結び付くのではないかと実感した。 『観光白書 平成30年版』によれば、外国人旅行者の総数は2017年(平成29年)に13億人(前年比6.7%増)をゆうに越え、 日本人海外旅行者数も、1789万人(前年比4.5%)と2年連続で増加している現状をみると、ボーダーツーリズムに寄せられる期待も大きい。 ボーダーツーリズムという用語は、用語自体としては新しいものかもしれないが、実は、 ツーリズムの形態としてはずっと前から存在しているものだ。 ボーダーが国境であるかどうかは別としても、ボーダーを越えるという行為、あるいはボーダーを意識することができれば、それはすでにボーダーツーリズムである。 今回のセミナーは、五島の世界文化遺産と済州島の世界自然遺産をめぐるボーダーツーリズムであったといえるが、 筆者自身、五島と済州をつなぐ歴史的な結節点にこだわりながら各々の場所をめぐった。 長崎・対馬が、韓国・釜山と日本を結ぶ朝鮮通信使の経由地点であったように、五島と済州島も古くは遣唐使が行き交う場所であったという。 食・生活文化の観点からすれば、五島の五島豚(五島つばき空港で食した五島豚とんかつは美味であった)は特産物のひとつであるし、 済州島の城邑民俗村(現地ガイドさんの軽妙な解説とジャパネット高田顔負けのお土産案内は、忘れられない) においても畜産業としての豚の飼育が済州島の生活に欠かせないものであったことを学んだが、 ボーダーを越えた2つの生活空間を結ぶいくつかの切り口の所在を確認しながら旅したことは有意義であったと思う。
 
コリアエクスプレスエアーのチャーター機
 
城邑民俗村にて:ガイドさんの軽妙な解説

 

  
 筆者の専門とするボーダースタディーズにツーリズムの視点を内在化させることによって、 境界地域を実体験するボーダーツーリズムが発展し、様々なツーリズム間のボーダーを越える運動へと変容していく可能性もあるだろう。 ボーダーツーリズムは、スタディーツーリズム(遣唐使の歴史)でもあり、フードツーリズム(食や生活文化としての豚)でもあり、 済州島の特産である冬虫夏草を求めてボーダーを越えれば、ファーマシーツーリズムともなりえるのである。 いずれにせよ、五島と済州島との間に日本初のチャーター便によって、五島市民が済州島を訪れ、国境と接する地理的に近い境界地域への 「気づき」が行われ、「空間の違い」を意識的に理解することができたのであれば、成功の域に達しているのではないだろうか。 ボーダーツーリズムの抱える課題としては、ボーダーツーリズムもツーリズムである以上、どのように集客力を生み出して利益をあげるのか、 商品化と研究分野としてのボーダーの垣根をどのように乗り越えていくのかなどが挙げられる。 ボーダーツーリズムを研究分野として発展させるためには、国境を含むボーダーを媒介させることによって、 ツーリズムが地域を創るという発想ばかりではなく、地域がツーリズムを創る主体であるという認識の下で、 地域とツーリズムの相補的な関係を構築していくことが求められているのではないだろうか。
世界自然遺産城山日出峰より済州島を臨む

[2018.11.29]


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