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Essays

ヘイシャーズに想う       [pdf版]

岩下 明裕(北海道大学・九州大学、国境地域研究センター副理事長)
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未整備の大ウスリー島(ロシア側)
 

昨年(2016年)9月にエムオーツーリストが主催した中露国境紀行。新潟からハルビンに飛び、綏芬河で中露国境を越え、ウラジオストクに抜ける旅。 バックパッカーにとってはそう難しくない旅であるが、団体旅行となるとそうたやすくはない。 中露国境を団体で観光するという初めての試みでもあったため、ハルビン、綏芬河、ウラジオストクなど現地に詳しい専門家の解説を盛り込むなど準備を周到に行った。 ボーダーツーリズムは日本のボーダーにかかわる場所から出発することをベースとしていることもあり、新潟でのレクチャーや観光にも力をいれた。
 さほど広報せずして多くの参加者が集まり、またその大半がボーダーツーリズム初参加であった。 鉄道で国境越えのグロデコボ駅で撮影をした数人が国境警備隊から写真を消されるなどのハプニングもあったが、それさえ参加者はみな楽しんでいた。 どちらかといえば、ネガの要素が強い国境を観光として楽しめるところまで来たと思うと、係争地そのものだった1990年代にこの地を旅した私にとって感無量であった。
 昨年の成功に気をよくした私は今年も中露国境ツアーに乗り気であった。 当初、想定していたのはハルビンから黒河に抜け、アムール川を越えてブラゴベシチェンスクに行くルート。 これもまた個人客にとってはある程度、自由に行けるルートであったから、団体観光も難しくないと思って提案した。

カザケヴィチェボからウスリー川
向かいの中国の公園を望む(ロシア側)

 ところがエムオーツーリストの濱桜子さん(本NPO理事)は、よりチャレンジングなツアーを提案してきた。 すなわち、2008年に国境画定がなされ、「フィフティ・フィフティ」で分け合った大ウスリー島(ロシア名)・ヘイシャーズ島(中国名) に中露双方から入ろうという企画がそれであった。 ロシア側にはウスリー川をはさんだ島の対面にカザケヴィチェボという国境警備隊の村がある。 ここは長年、立ち入り禁止の場所であり、私も入ったことがない。 それ以上に、近年までこのあたりまで来た日本の記者たちがよく拘束されていたと聞く。 ところがなんとその村に観光で入れるようになったということだ。 昨年も濱さんは同じ提案をしてきたのだが、そのときは村への立ち入りは却下。 だが昨年末に北海道放送がこの村で取材をしたこともあり、状況がこの1年で変わったのだろう。 このツアーではなんと入れるという(ただし、許可に時間がかかるため、2か月前までに申し込みが必要)。
 それなら島に行こうと濱さんをサポートすることにしたが、中国側からは島に入れないだろうと思っていた。 私は4-5年前に中国側から島を見にいったことがある。 国境画定が終わり、中国側は急ピッチに開発を進めていたが、それでも橋は仮設で、 多くの建造物はプランのみであった。

アムール川から中国のタワーを見る
(高速船から)

 重要なことは当時、外国人は島に入れなかったこと。 観光地として整備が進んだ今もそう簡単ではないと踏んでいた。 実際には入れるようになっていたそうだが、 なぜか7月22日から日本人や韓国人は再び入れなくなったとのこと。
 しかし、濱さんや関係者の努力が事態を動かす。
 私たちは結局、9月1日、ハバロフスクからアムール川を小さな高速船で渡り、撫遠に入った後、 すっかり整備されたヘイシャーズ島に上陸。

ここから橋を越えてヘイシャーズ島へ(中国側)

 立派な橋と舗装された道。整備された公園。博物館として保存された旧ロシア軍の国境警備隊基地跡、 そして島のロシア側の半分やハバロフスクまで遠望できる大きなタワー。その見事な観光地ぶりを堪能できた。
 その素晴らしくエキゾチックな眺望に参加者一同大興奮。 写真をとるときはチーズの代わりに「大ウスリー」(ロシア側で撮るとき)、 「ヘイシャーズ」(中国側で撮るとき)! 

ヘイシャーズ島の湿地公園(中国側)

国境地域に来てこんなに楽しそうに笑う人たちを見るのも初めてだ。
 ハバロフスクではウォッカ、中国に入ってからは白酒で連夜の乾杯。毎日がおおいに盛り上がった。
 最終日の3日は私の誕生日。この時期、旅をすることが多く、 祝ってもらうことなどほぼないのだが、サプライズで中国の旅行社から30人分はあろうかというケーキのプレゼント。

誕生日おめでとう

 かつての国境紛争の島を笑顔で観光する。
中国とロシアの関係がいま安定しているシンボルともいえる現場を観ることで学ぶことは多い。
  今年こそ中露国境ツアーの解説添乗は最後だと思っていたが、みんなの笑顔があるかぎり、ボーダーツーリズムは続けていきたい。

  *中露国境係争地の解決にむけた詳細については下記を参照・  
 http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/3929/KJ00004191786.pdf
 http://www.hokudai.ac.jp/bureau/populi/edition21/churo.html
 http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/JapanBorderReview/no3/07iwashita.pdf
 
 

 また、福岡でのセミナーについては こちら  [2017.9.8]


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