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Essays

JIBSN竹富セミナーに参加して
 ― 「上からの」 国境と 「下からの」 国境

川久保 文紀(JCBS会員)


 2014年14日から15日にかけて、境界地域研究ネットワークJAPAN(JIBSN)が主催し、特定非営利法人・国境地域研究センター(JCBS)などが協力する「竹富セミナー」が沖縄県竹富町において開催された。 参加者はJIBSNに関わる研究者、境界自治体関係者、実務家、ジャーナリストに加え、竹富町の地元住民の方々の参加も含めると総勢58名にのぼり、小笠原諸島での中国漁船による赤サンゴの密漁問題などが連日メディアを賑わせていたように、離島に暮らす人々の境界・国境問題への関心の高さがうかがえた。 初日は、西表島の現地視察が行われた。最初に訪れたのは、西表島野生生物保護センターであった。国の特定記念物であるイリオモテヤマネコの保護に国(環境省)も含めて総力を挙げて取り組んでいる現在の状況を知ることができた。 その後、沖縄県では最長の長さを誇る裏内川に移動し、ボートで遊覧することによって、マングローブの生態系をじかに観察し、「日本最後の秘境」と呼ばれる西表島の原生的な自然の姿をじかに観察することができた。




西表島浦内川クルーズ

 午後は、西表島中野地区地域活性化施設(わいわいホール)に場所を移し、セミナーを開催した。 冒頭に、開催地を代表して竹富町の竹満栄長町長より歓迎のご挨拶を頂き、引き続いて、臨時市議会のために出席できなかったJIBSN代表である財部能成・対馬市長の挨拶文を小島和美・対馬市総合政策部次長が代読し、新国境離島振興法成立に向けた期待が述べられた。 第一部のセッション・テーマは、「日本の国境観光を拓く」であり、3つの報告が行われた。第一報告は、島田龍氏(九州経済調査協会・研究主査)による「西の国境(対馬・韓国)観光の経験から」であった。 日本人観光客を多く招き入れるために実施した対馬・釜山モニターツアーについての概要報告と、福岡―対馬―釜山を跨ぐ国境地域という地理的特徴を生かした今後の取り組みについての説明があった。 第二報告は、大浜一郎氏(八重山経済人会議・代表幹事)による「南の国境(八重山・台湾)観光の実現に向けて」と題した報告であった。大浜氏は、昔から密接な交流を保ってきた石垣と台湾の空路での結びつきは、重要であり、民間と行政が一体となって中華航空への働きかけを強め、国境観光の意義をさらにPRしていくことを説いた。 最後に、高田喜博氏(北海道国際交流・協力総合センター・上席研究員)による「北の国境(稚内・サハリン)観光の実現に向けて」と題した報告が行われた。 この報告では、稚内―サハリン交流の現状を具体的なデータに基づきながら説明した後に、国境地域の交流をヒトからモノへと拡大させ、稚内―サハリン間に点在する観光資源をネットワークによって結びつける広域観光連携の重要性が論じられた。

 第二部は、「日本の国境環境政策を紡ぐ」と題して、2つの報告が行われた。 第一報告は、大城正明氏(NPO法人南の島々(ふるさと)守り隊)は、鳩間島で行われている漂流発砲スチロールゴミを精製してスチレン油にする社会的な実験についての説明があり、家庭ごみから出る発砲スチロールゴミからも同様の試みが行われている現状についても報告があった。 自治体レベルでの活動には限界があることを踏まえた上で、時限的な措置であるグリーンニューディール基金などからの継続的な財政的支援の必要性についても論じられた。 第二報告は、前述の小島和美氏(対馬市総合政策部次長)による「対馬の海岸漂着ゴミ対策―行政の視点から」であった。 この報告では、まず、対馬市の地理的位置に起因する海岸漂着ゴミの対策・処理について、国や県との連携による削減方策総合検討事業の内容について現状説明があった後に、過疎化や高齢化に伴う清掃活動を行う人口が減少し、島内に大型焼却施設や最終処分場がないことなどが、市の財政的な負担とも相俟って大きな問題であることが説かれた。 こうした現状を踏まえ、国や県への財政支援の要望はもとより、市独自での油化装置の導入、日韓両国の大学生による「日韓ビーチクリーンアップ事業」、対馬市と市民活動団体による「日韓海岸清掃フェスタIN対馬事業」など、行政と一般市民が一体となってこの問題に取り組んでいく決意が表明された。 その後、全体的な質疑応答の時間に移り、個々の報告に対するコメントや質問も含め、活発な議論が行われた。


竹富セミナーの様子

 シンポジウム終了後は、西表島最古の歴史をもつ西表島祖納(そない)地区の公民館に場所を移し、地元の方々による郷土料理や伝統芸能によって歓迎の宴がもたれた。 とくに、「田植びジラー(一番ジラー)」は、ユイマールの共同作業で田植えが終わった後に、田小屋に人々が集まり泡盛と料理で振る舞われた様子を表わす伝統的な民謡とうかがった。地元の方々のおかげで、通常の観光では決して味わうことのできない濃密な時間を過ごすことができた。



祖納地区の人々による伝統民謡「田植びジラー」

 2日目は、白浜港から内離(うちぱなり)島にチャーター船でわたり、炭坑跡を視察した。内離島は西表島の西に浮かぶ無人島であったが、明治から戦中にかけての炭坑があり、日本ばかりではなく、中国や台湾からも実情を知らされないままに集められた炭坑夫やその家族が数多く住んでいたそうである。 そして、劣悪な労働環境やマラリアの蔓延によって、多くの人命が失われた歴史をもつ。西表島(とくに浦内川流域)やその周辺に浮かぶ島々は、前述したイリオモテヤマネコやマングローブなどによって一般的に有名であるが、戦争や炭鉱労働という過酷な歴史の一面を覗かせる島々であることも理解することができた。 午後は、美原から水牛車に乗って由布島に移動し、島内散策を楽しんだ後に、大原港からチャーター船で最後の視察先である竹富島に渡り、国の重要伝統的建造物群保存地区、国の有形文化財である「なごみの塔」などを各自自由に散策した。当日は、国の重要無形民俗文化財である「種子取祭」が開催されており、普段にも増して、観光客が多かったようである。



水牛車で由布島へ

 最後に、国境の島から見た日本の姿は、東京に住む私にとっては、非常に異なった輪郭をもっているように思えた。 厳格なラインとして引かれた国境ではなく、島と島がゆるやかにつながっているネットワーク型の国境である。国境や領土のマネジメントに関しては、国家などのマクロ・レベルにおける「上からの」国境というイメージが前面に出ることが多い。 しかしながら、境界地域の自治体関係者、研究者、実務家などが連携しながら、国境における生活空間を形成する地元住民の声を中央政府の国境・離島政策に「的確に」反映するために、「下からの」国境を作り上げようとするこうした重層的な取り組みは今後も重要性を増していくだろう。

 2日間にわたる行程であったが、今回の竹富セミナーの開催にあたって、ご尽力いただいた開催自治体である竹富町役場の勝連松一企画財政課長、JIBSN小笠原巡検以来の友人である小濱啓由企画財政係長には心よりお礼を申し上げたい。 行政マンとしての普段の日常業務に加え、このセミナーの企画・開催にどれだけの時間と労力を割いていただいたのかを考えると頭が下がる思いである。この2日間で得た貴重な経験や知見を今後の研究に少しでも生かせればと思う。



竹富島の西桟橋より小浜島と西表島をのぞむ
(左から筆者、岩下明裕・JIBSN副代表幹事、合田由美子・JCBS事務局長、古川浩司・JIBSN事業部会長)

[2014.12.01]



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